シリーズ1 ライブドアのTOB回避

時系列に沿うという意味でもライブドアによる株取得の話から行きます。

ほりえもん批判として、時間外取引の批判があります。「なぜTOBをしないのか」と。

普通、ある会社を買収しようという時(特に敵対的買収)、株式公開買付(TOB)が行われます。投資家はそれを見て「ああ、あの会社をこの会社が買収するのか」と判断します。
ところが、ニッポン放送株の買い集めに際して、ライブドアTOBをやりませんでした。
そこで、「買付を公開しないのは、卑怯な闇討ちだ」という解釈がされる訳です。私も最初はそう思っていました。

ところが、今回の騒ぎを契機に調べてみたところ、TOBの目的は支配会社の異動を公開する事ではなかったのです。

では、何のためにTOBが制度化されているのか。それは市場外取引によって一般投資家が置いてきぼりを食わないようにするためです。

モデルケース(本当はこんな会社は公開できません)
対象会社発行済み株式数 1000株
 市場株価    5000円
 株主構成

  • A社 300株
  • B社 150株
  • C社 125株
  • D社 100株
  • その他一般株主 1株×325人

さて、この会社をなるべく早く確実に子会社にしようと思ったら普通の企業はどうするでしょうか?
過半数501株取るために、5000円×501株=250万5000円で足りると思う人は、M&A関係の仕事はできません。
一般株主は気まぐれなので、市場価格で売ってくれるとは限りません。いや、それどころか2倍以上の値段を付けても、手放そうとしないマニアはいます。(もちろん、5001円で売ってくれる株主もいる訳ですが)
大株主4社と話をした方が、早く見込みが立てられます。
A社と、その他3社のうち2社が全株売ってくれれば、過半数が取れて、晴れて子会社化できます。

とはいえA社も、この会社の株に価値を認めているからこそ株を持っているので、多少は高めの値段を提示する必要があります。
で、1株5500円なら売ってくれる事になったとしましょう。
次はC社に行きます。何とか1株5500円で売ってくれるよう話を付けました。D社とも同じように交渉しましょう。うまくやれば5300円/株で売ってくれるかもしれません。

さて、ここまでに使ったお金は、2,867,800円です。で、525株買えました。

結局、株式市場を使わずに、300万円弱で過半数取れてしまいましたね。

さて、その後、もしB社が噂を聞きつけて「うちの株も1株5250円で買ってくれ」と言ってきたらどうしますか?
単価で言えば一番安いのですが、もう予算もほとんど残ってないし、目的は達成してしまったので、今更追加で買う必要はありませんよね。

高い値段でも売れる人がいたり、安くても売れない人がいたりすると、「株価」というシステムが崩壊してしまいます。これは株式市場を維持する上で非常にまずい話です。
なのに、なぜ5500円を付けたA社C社は売れて、5250円のB社は売れなかったのか?
それは票読みの都合です。票読みの都合で、市場価格を無視した取引を行った結果として、市場価格が形骸化した訳です。

これを防ぐために出来たのが公開買付(TOB)義務です。市場外で株式を買う会社は、票読みの都合で無視できる株主(B社や一般株主)からも、A社・C社から買った時と同じ条件で買わなければならない(同じ条件でなければA社・C社からも買えない)という制度です。
もちろん、経済活動は自由が原則なので、市場外取引を全面的に禁止する事は(なかなか)出来ません。そこで「一定割合以上の株式を取得する場合」という条件を付けて、票読みしそうな会社をターゲットに限定した訳です。
これによって、B社や一般株主(1万円でも売らない奴は無視。5001円でも売っちまえと思っていた株主)も、同じ条件で売れます。そうなれば、TOBで宣言した価格が事実上の市場価格(の下限)になり、市場のシステムが維持できます。


これが、TOBの(元々の)目的です。ライブドアは「時間外取引」を使っていますが、これはあくまでも市場での取引を時間外にやっているだけなので、上記の弊害は生じません。
ほりえもん的には、票読みの必要もないし、誰の売った株でも構わない)

だから、TOBをかけなかったからと言って、法的責任を追及しようとするのは、法の性質を知らない勘違い野郎(以前の自分)のやる事(というのが現在の私の理解)です。

という事で、TOB編はここまでです。


突っ込みどころは満載だと思いますが、元々mixiで身内をターゲットに書いてた文章なので、「一部の人にわかりやすい」事を目標にしていたという事でご勘弁頂きたく。

コメント・トラックバックで、もっと詳しいor正確な説明ページを紹介して頂ければ、なんて都合の良い事を考えていたりします。